いま、新車乗用車市場でもっとも注目されているジャンルは、コンパクトクロスオーバーSUVだ。その影響は、軽自動車マーケットにも及んでいる。
昨今の動きも活発で、ジャンルの定番モデルであるスズキ『ハスラー』が昨年末にフルモデルチェンジして2代目に進化したのに続き、ニューフェイスとなるダイハツ『タフト』がデビュー。タフトは4000台という月間販売目標に対し、発売開始1か月で1万8000台を受注するなど好調なスタートを切っている。
ほかにも三菱からはSUVテイストを強調する軽自動車の『ekクロス』が昨年デビュー。以上の3台はすべてハイトワゴンをベースにしたパッケージングだが、そのトレンドは三菱『ekクロススペース』やスズキ『スペーシアギア』といったSUVテイストを盛り込んだスーパーハイトワゴンにまで波及しているのも見逃せない動きといっていいだろう。
そこで今回は、各車の特徴とともに、どんな人に向いているかをみていこう。
軽SUVに革新をもたらした スズキ・ハスラー
スズキ ハスラー 新型
昨今の軽自動車クロスオーバーSUV市場を作り上げたのは、2014年に発売された初代ハスラーだ。それより前にもスズキ『Kei』やホンダ『Z』など大径タイヤを履かせて最低地上高を高めにしたクロスオーバーSUVライクなモデルもあったが、2つのポイントからハスラーはそれらとは大きく異なる革新を生んだ。
ひとつはアウトドアグッズに通じるアクティブな雰囲気を強調していたこと。もうひとつはハイトワゴンのパッケージングとしていたことだ。
いずれもヒットの要因だが、特に後者はKeiやZに比べて実用性に与えたメリットが大きく、後席居住性は次元が異なる。それが初代ハスラーのヒットを大きく後押しした理由なのは間違いない。
スズキ ハスラー 新型
昨年末に発表となり、今年1月に発売した新型もその方向性を受け継いでいる。車体設計やデザインは刷新されたものの、丸いヘッドランプなど初代のイメージは継承。そのうえホイールベース延長などで後席居住性を高めるなど、実用性は着実に進化している。
そんなハスラーが向いているのは、個性的で楽しいクルマを求めつつ、スーパーハイトまでは必要ないけれど後席を日常的に使うユーザーだ。後席に左右独立のシートスライドやリクライニング機能を採用。広さでもハイトワゴン系のトップに近い水準を誇る。
また、車高をリフトアップして最低地上高を増したことで雪道での走破性が高まっているから、雪が深く積もる地域に住んでいる人にもオススメだ。
ハスラー対抗…ではない!? ダイハツ・タフト
ダイハツ タフト
タフトのキャラクターもスズキ・ハスラーに近い。ハイトワゴンのパッケージであり、SUVテイストを強調。通常のハイトワゴンに比べると最低地上高が高いのに加え、ハスラーやeKクロスと同様に悪路での走破性を高める走行モードも組み込まれ、雪道やちょっとした悪路の走破性も高められている。
そんなタフトは多くの人にとってハスラーの対抗モデルと感じられることだろう。しかし、方向性が大きく異なる二つの違いがある。後席の位置づけと、前席の環境だ。
ハスラーの後席は、一般的なハイトワゴンと変わらない。左右独立のシートスライドが備わり、最後部にすれば前後席間距離がゆったりとなる。対してタフトのリヤシートはスライドもリクライニングもない固定式で、居住性という視点からみると、ハスラーに届いていない。
ダイハツ タフト
しかし、別の視点から見ればタフトの個性と長所が際立つ。後席を格納した荷室拡大状態だ。タフトの後席は折り畳むと荷室の床面ときっちり一体化し、そのフラットさはダイハツの軽乗用車でナンバーワン。居住性の高さではなく、荷室拡大時に光るパッケージングとしているのだ。
さらに荷室床とシート背面はハードな樹脂で覆われているから床の変形を恐れず重めの荷物も積めるし、汚れても水拭きで掃除できる。そのうえ荷室の幅をわずかでも広げるためにリヤドアのアームレストまで非採用とするなど、積載性アップのために細かい部分まで考え抜かれているのだ。
居住性よりも荷室としてアクティブに使うことを重視した後席が、タフトの最大の持ち味。とはいえ、後席が使えないかといえばそんなこともない。しっかり広く快適なのでハスラーや他のハイトワゴンと比較さえしなければ、居住スペースとしても充分なものだ。
ダイハツ・タフト新型
前席環境については、「スカイフィールトップ」と呼ぶガラスルーフを全車に採用するなど、新しい発想でライバルに差をつけている。また、シートを軽ハイトワゴンのスタンダードとなるベンチシートではなくセパレートシートとしている(これは現行型ハスラーも同様)ほか、左右を隔てるセンターコンソールまで組み込んでいるのが特徴。足元の解放感や左右ウォークスルー性を犠牲としているが、それよりもSUVらしいコックピット感覚を作ることで個性を高めているのである。
SUV“ライク”が持ち味! 三菱 ekクロス
三菱 eKクロスとデリカD:5
ハスラーやタフトに近いイメージのekクロスだが、実は大きく異なる。ハスラーやタフトが一般的なハイトワゴンに比べて車体をリフトアップして最低地上高を増している(ハスラー:180mm/タフト:190mm)のに対し、ekクロスは155mm。これはスーパーハイトワゴンの『ekスペース』と同じ数値で、すなわち最低地上高アップによる雪道や悪路走破性のアップは期待できないのだ(「グリップコントロール」と呼ぶ電子制御の悪路走行モードは搭載)。
ただしこれは「それを求めるか、それとも求めないか」というクルマ選びのニーズにより評価が変わるところ。雪道や悪路での走破性を高める必要がないのであれば、SUVライクなクルマだからといって必ずしもマストではない。
三菱 eKクロス
いっぽうでメリットも生んでいて、それは重心が低いことによる舗装路でのハンドリングや乗り心地。ハスラーやタフトに対してごくわずかな差ではあるが、確実に有利に働いている。言い方を換えれば、ハイトワゴンそのもののパッケージングでアクティブな雰囲気を求めるのであればジャストなクルマと言えるだろう。
後席は、ライバル以上に確保する前後席間距離によりハイトワゴン系でもっとも広い空間を誇る。ただし、リヤシートのスライドは分割ではなく左右一体だ。
スペーシアのドレスアップ版、スズキ・スペーシアギア
スズキ スペーシアギア
続いて、SUVテイストのスーパーハイトワゴンもチェックしてみよう。これらは上記3車種よりも背が高く、リヤドアにスライド式を組み合わせ、より後席が広くて居住性も高いのが特徴だ。まずはスペーシアギア。
ひとことでいえば、「スペーシア」のドレスアップ仕様だ。スペーシアに対してリフトアップなど構造的な変更は行わず、フロントデザインの変更やルーフレールの装着などでアクティブな雰囲気を創出。インテリアでは撥水加工のシート表皮や防汚タイプのラゲッジフロアなどで、レジャーシーンにおける利便性を高めている。
スズキ スペーシアギア
走行機能や性能に関してはスペーシアからの変更はないが、利便性の高いパッケージングでSUVライクな雰囲気を味わいたい人にとっては魅力的な選択肢だ。
兄弟車の日産ルークスとは違う!三菱 ekクロススペース
三菱 eKクロススペース
ekクロススペースの成り立ちは、ekクロスに近い。つまり、スタンダードな『eKスペース』に対しリフトアップはせず、スタイリングの変化だけでエクステリアにおけるSUVらしさを演出しているのだ。
もちろん、スーパーハイトワゴンならでは使い勝手のよさもそのままで、大開口のスライドドアや320mmものスライド量を誇る後席と、そのシートアレンジが生み出す荷室スペースは、お出かけクルマとしてのSUVらしい使い方にも十分耐えうる。
そして、兄弟関係にある日産『ルークス』とは走行機能系の装備で差をつけていることは注目すべき部分である。ekクロススペースでは急傾斜の下り坂での車速を制御して一定に保つ「ヒルディセントコントロール」や、雪道や悪路といった滑りやすい路面でタイヤのスリップを制御し走破性を高める「グリップコントロール」など悪路走破力を高める電子デバイスが標準で用意され、加えてターボ車にはパドルシフトが組み込まれる。一方でルークスにはそれらの設定がないのだ。
リフトアップこそないものの、兄弟関係のモデルに対して走行機能系装備が充実しているのがekクロススペースのアピールポイントである。
まとめ
クロスオーバーSUVテイストの軽自動車と一口にいっても、考え方はそれぞれ異なる。走破性を求めるのであればリフトアップしているハスラーやタフトが有力候補だが、その選び分けは外観デザインのほか後席の位置づけ、ラゲッジスペースに対する要求などで考えると答えを導きやすい。
また、悪路走破性を必要としないのであればekクロスも魅力的な選択肢。後席の広さではハスラーやタフトを超える。
スペーシアギアやekクロススペースは、広大な室内スペースを重視しつつ、SUVテイストを求める人には最適なチョイスとなるだろう。
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August 19, 2020 at 10:00AM
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