軽自動車のSUV人気に先鞭を付けたスズキ『ハスラー』。当初より大人気となったが、今年初めに2代目となる新型が登場。今も好調な販売台数を記録し続けている。その理由を探るべく、千葉~栃木・那須間の往復約600km超えるロングドライブを敢行した。
機能重視のコンセプトが伝わってくる
ダッシュボード中央部に備えられるオプションのメモリーナビ。CD/DVドライブも装備される
今回、試乗したのは「ハスラー ハイブリッド Xターボ」。運転席に座ると目の前には、3つの大きなカテゴリーに分けられたインスツルメントパネルが左右に広がる。運転に必要なメーター系とナビゲーションを含むエンタメ系、そしてグローブボックスなど収納系がカテゴリー別に分けられ、ハスラーらしい機能重視のコンセプトが伝わってくる。内装も外装色に合わせた加飾が施され、アクティブな雰囲気を味わうには十分だ。
シートは旧型のベンチ式からセパレート式に変更となった。シートバックポケットも軽自動車としては珍しく左右に装備しており、後席の人もスマホなどの置き場所に困ることもないだろう。特に運転席側ではスマホを入れるのに便利な浅いポケットと、ポケット内が見通せるメッシュタイプを採用。助手席側には可倒式テーブルも用意するなど、後席に座った人に対する優しい設計が嬉しい。
新型ハスラー「ハイブリッドXターボ4WD」の内装
リアシートは2分割でき、それぞれにスライド機能も備えた。シートバックを倒す時は座面が下方へフォールダウンするので、シートを畳んだときはフラットかつ広々としたカーゴルームへと変化する。限られたボディサイズの中でSUVらしい使い勝手を生み出しており、その実用性は軽自動車の中でもトップクラスと言えるだろう。
「ハスラー ハイブリッド Xターボ」は電装系の充実ぶりも光る。前席は左右ともシートヒーターを備え、ヒーテッドドアミラーやリアヒーターダクトも標準装備。軽自動車の多くが4WD車だけとしている装備を2WDでも標準化しているのだ。積雪はほとんどしなくても寒い地域は数多い。そんな状況とクルマのコンセプトをしっかりと理解したものとして評価したい。
質の高いドアの開閉音に驚く
新型ハスラー「ハイブリッドX・2WD」の内装。内装の加飾部はボディカラーと同色になる
さて、出発しようとドアを開け閉めしてまず気付いたのが、その重厚な音だ。軽自動車の場合、左右幅に制限があるため、ドア厚が稼げず、開閉音はどうしても薄っぺらな音になりがちだ。しかし、新型ハスラーはそんな印象は微塵も感じさせない。この質感ある音を確かめるために何度も無駄にドアを開け閉めしてしまったほどだ。
ドライバー席にはやや高めで座る。そのため前方視界は良好で、小柄な女性であっても取り回しは楽にできそうだ。ステアリングにテレスコピック機能を備えないものの、フットレストもしっかりとした造りで、少なくとも私にも十分フィットするポジショニングを取ることができた。ただ、よりフレキシブルな対応を考えればテレスコピック機能の装備は欲しいところだ。
エンジンはR06A型0.66L直3ターボエンジン
エンジンはR06A型660cc直3ターボエンジンに、大幅改良されたCVTとマイルドハイブリッドを組み合わせる。発進するとモーターアシストが効いているのか、低速域から軽く速度が上がっていく。やがてターボに引き継がれ、軽々と高速域まで到達することができた。CVTにありがちな速度が後からついてくるような感覚も抑えられており、この巧みな制御のおかげもあり、大人2名乗車でもストレスを感じさせることはなかった。
乗り心地はやや硬めの印象だが、一般道にありがちな路面の継ぎ目も上手にいなしてくれ、不快感はほとんど感じない。高速域に入ってもその印象は変わらず、むしろ硬めであることが安心して走れる要素ともなっていた。ただ、少し大きめの凹凸があるとサスペンションのキャパを超えるのか、ショックがキツメに出ることはあった。
タンク容量が27リットルしかないのも改良すべきポイントだ。今回のように平均燃費が18.5km/リットルを記録してもこの容量だと600kmを走るには途中で給油が必要となる。ハナからロングドライブを考慮していない姿勢がアリアリだ。ACCを搭載したことで、遠出をするユーザーも増えてくるはず。せめて片道500km程度は楽に走れる容量は用意して欲しい。
全車速追従ACCはスムーズな加速、だが車間の安定度はイマイチ
新型ハスラーのADAS機能を司るコンパクトなステレオカメラ
新型ハスラーは先進安全運転支援システム(ADAS)の充実も魅力の一つとなっている。その要となっているのがフロントガラス上部に取り付けられた小型ステレオカメラだ。このカメラは日立オートモティブシステムズ製で、左右のレンズ間距離が160mmでしかないコンパクトさを実現しながら、遠方の検知能力と広角化を合わせて実現したことにポイントがある。これが交差点での歩行者検知などに大きな効果をもたらすのだ。
さらに、「ハイブリッド Xターボ」を含むターボモデルには、スズキの軽自動車として初めてアダプティブクルーズコントロール(ACC)を全車速対応型とした。これによって先行車が減速して停止するまで自動追従することが可能となったのだ。この装備は今や軽自動車でも標準化の方向にあり、スズキとしても順次この機能を搭載していく予定だという(既に『スペーシア』にも搭載した)。
ACC機能の設定はステアリング右側のスイッチで行う
この機能は特に高速道路を使ったロングドライブでのメリットが大きい。アクセルから足を離しても細かな車速制御を自動化してくれるからだ。使ってみると、先行車との車間が今ひとつ安定しなかったが、一旦減速して設定速度までレジュームした時の復帰はターボ車であることも手伝ってとてもスムーズ。この加速でのストレスは感じなかった。ただ、装備された車線逸脱抑制機能(LKA)は車線中央を維持することはなく、操舵アシストもどことなくギクシャクした印象を受ける。
また、パーキングブレーキが機械式であることで、先行車に追従して停止状態を保持し続けることはできないことも残念な点。停止後2秒間は停止が維持されるが、その後はアラームと共に停止が解除されてしまうのだ。軽のライバル車が相次いで全車速追従ACCを採用する中で、電動パーキングブレーキ(EPB)への早期対応を願いたいところだ。
もう一つ気になったのは、「ハイビームアシスト」の精度で、対向車のヘッドライトはそこそこに反応してくれたものの、先行車のテールランプには認識がイマイチだったのだ。そのため、先行車がいるのに突然ハイビームに切り替わったりするので、煽っているかのように思われてしまわないかとヒヤヒヤしてしまった。
よく出来たパイオニア製ナビを用意。全方位モニターも◎
メーター内のディスプレイでは多彩な表示に対応する
一方でメーター内のディスプレイは様々な情報が表示されて使い勝手が良い。カメラで読み取った、速度制限をはじめとする交通規制のほか、航続可能距離やマイルドハイブリッドの状態もここで表示される。ACCを使ったときのセット状況もわかりやすい。後述するカーナビのガイドも行われる。これがスペーシアのようにヘッドアップディスプレイで表示できるともっと良かったと思う。
個人的にとても気に入ったのが、メーカーオプションで装備されるカーナビゲーションだ。このシステムは9インチHD(ハイビジョン)ディスプレイを備えたメモリーナビで、スズキが次世代スズキ車向けに3年ぶりに開発したメモリーナビだ。「ホーム」画面を用意して、ここに「ナビゲーション」「車両情報」「オーディオ」の3つの情報を同時表示。それぞれをタップすることで、即座に使いたいモードへと切り替わる使いやすさを優先した。
メモリーナビはパイオニア製。政令都市では詳細な3Dマップで進行方向を案内する
このナビはパイオニア製で、そのため市販されているカーナビ機能の多くを踏襲している。ルート案内中、分岐点に近づくに従いスケールをズームアップするするオートフリーズームは便利だと思うし、何よりHD化された地図は細部まで鮮明に表示するので情報が把握しやすい。また、このナビを装備すると全方位モニターも装備され、この機能は不慣れな土地へ出掛けた時に特に重宝する。
さらにApple CarPlayとAndroidAutoの他、SDL(Smart Device Link)に対応したことで、スマホ内の多彩なアプリを安全に車載機側からコントロールできるようにした。CD/DVDドライブも装備しているのも見逃せない。
スマートフォン連携のSDLを起動すると、LINEカーナビが使えるようになる
軽SUVとしての資質は間違いなくトップクラス
約600kmを走って感じたのは、車としての質感が格段に上がったということ。ドアを閉めた瞬間からその音に高品質さを感じ、エンジンをスタートすれば車体を軽々と希望の速度域まで引っ張り上げてくれる。ハンドリングもコシがある、しっかりとしたもので、安定した走りに大きく貢献してくれている。
高速道走行時の静粛性は満足できるほどではなかったが、トータルバランスでの仕上がりで全モデルを確実に上回っているのは確かだ。軽SUVとしてその資質は間違いなくトップクラスにあると思う。
会田 肇|AJAJ会員
1956年・茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。大学卒業後、自動車専門誌の編集部に所属し、1986年よりフリーランスとして独立。主としてカーナビゲーションやITS分野で執筆活動を展開し、それに伴い新型車の試乗もこなす。自身の体験を含め、高齢者の視点に立った車両のアドバイスを心掛けていく。
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