■明暗分かれたアベノマスクと百合子マスク
新型コロナウイルスとの厳しい戦いのなかにある今、2人の政治家の布マスクが注目を集めている。一方は安倍晋三内閣総理大臣の「アベノマスク」、もう一方は小池百合子東京都知事の「百合子マスク」だ。安倍首相が身につけ全世帯に配布しようとしている「アベノマスク」が批判と揶揄の的となっている一方で、小池都知事が会見などの際に着用している「百合子マスク」は好意的に受け入れられ、注目を集めているようだ。
新型コロナウイルスの感染者数が増えるにつれ、予防のためのマスクは生活必需品になってきた。しかし需要の急増に供給が追いつかず、使い捨てマスクはなかなか手に入らない状況が続いているのが実情だ。
すでにマスクの品薄が問題となっていた2月12日の会見では菅義偉官房長官が「来週以降、毎週1億枚以上、供給できる見通し」と発言。3月15日にはマスクの高値転売が禁止され、3月17日には菅官房長官は「月6億枚超が確保される」とコメントした。しかし、いまだ流通の正常化には程遠く、まずは医療物資としての供給が急がれる事態のなかでサージカルマスクを業務上必要としない一般人には、使い捨てではない布製のマスクを使うことも求められている。
いわばその先陣を切るようにして使い回しのできる布マスクを使っている政治的リーダーが安倍首相と小池都知事だといえるが、なぜ「アベノマスク」が揶揄される一方で、「百合子マスク」は人気を集めているのか。
■アベノマスクの機能性は
安倍首相が布マスクをつけて公の場に初めて現れたのは3月31日のことだった。「マスクの正しい付け方」として鼻にフィットさせ顎まで覆うことが示されているなか、鼻梁に添わず顎が大きく露出する、昔ながらの「給食当番」を思わせるガーゼ製のマスクだ。
しかしその翌日、安倍総理はさらに国民を驚かせる発表をすることになる。
4月1日、総理官邸で行われた新型コロナウイルス感染症対策本部の会議を踏まえ、安倍首相は「緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5000万余りの世帯すべてを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布する」と発表したのだ。
この“対策”は発表されたのが4月1日であったことから「エイプリルフール? 」などと反響を呼び多くの非難を集めた。誰が名付けたのか、アベノミクスになぞらえて「アベノマスク」などと揶揄されている。
■466億円の予算でほかに何ができたか
4月初めというのは諸外国では感染拡大防止のためのロックダウンとそれに伴う経済対策が次々に行われていた頃だった。日本でも緊急事態宣言を出すのか、その際には減収世帯や自粛によって売り上げの落ち込んでいる企業・個人事業主への補償、経済対策はどうなるのかと政府の対策に注目が集まっていた。
だが新型コロナウイルスの国内感染者が発見されてから2カ月余り、現金の給付を求める声もあったなかで配られることが決定したのは一世帯につき2枚の布マスクだった。
4月3日、菅官房長官はこの施策について迅速さを重視するため、まずすべての住所に2枚ずつ送り、その後状況に応じて必要な分を追加するものであると説明していた。しかし4月29日の時点で配られたマスクは約440万枚。1億3000万枚の配布を予定して配布開始から2週間弱が経過しても、全体の約3.4%しか配られていない。カビの付着などの不良品が見つかり配布が遅れているのだ。
5月初めの今、国民に配布されて広く使われているはずだった布マスクをつけているのは国会を見渡しても安倍首相くらいで、菅官房長官も使い捨てのマスクを使用している。
しかも「アベノマスク」配布には、466億円もの予算が割かれている。これはスカイツリーの400億円、札幌ドームの422億円という建設費をも上回る金額だ。
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